ウォーキングクラブのリーダーであるDさん。
彼の長年の相棒であったコッカースパニエルのクロエがとうとう他界したと、今朝メイルで連絡が入った。 クロエは今年14歳で犬年齢としては高齢。ここ数年かなり内臓が弱ってきて病気がちだったので、Dさん自身も「そろそろクロエも限界かもしれない」と話していた。 クロエは私がこのクラブに参加した当時から、Dさんの“ご厚意”でリードを引いて歩かせてもらった初めての犬で、いわば私にとっては犬オーナーへの道の“練習台”となってくれた存在なのだ。 そして慣れぬ長距離のウォーキングや、雨や手の感覚がすっかりなくなるほどの寒さの中でのウォーキングにへばりそうになった時、いつも励ましてくれた存在でもあった。 なにしろあの小さな体で(ついでに付け加えると、クロエは生まれつき耳が聞こえない。白い犬にはよくある症状である)、とことこと8マイル、10マイルの道も厭わず歩みを進めていく。その健気な姿を後ろから見ながら「よし。こんな小さな犬だって歩き続けているんだから、私にできないわけがないぞ」と自分を何度も叱咤激励してきた。 クロエはDさんと奥さんのMさんについて、毎年恒例になっているスコットランド・ハイランドへのキャンピングカーでの長旅に先月同行したばかりだ。そして残念なことに、旅の途中で体調が急激に衰え始め、エジンバラ郊外の動物病院に緊急入院。 帰宅後は食事も水分もほとんど受け付けず、意識があったりなかったりという寝たきり状態になってしまったらしい。 実は火曜日の朝、Dさん夫婦が二人だけで村の外を廻るパブリック・パースを歩いているのに出くわした。 旅行はどうだった?と会話を始め、クロエが一緒にいないことに気がついた。 「もうほとんど意識がないんだ。いつ逝ってもおかしくない年齢なんだよなあ。仕方ないよ」と寂しそうに話していたDさん。 そんな彼らを元気つけるためもあって、その午後お茶に呼ばれることにした。 正直なところ、こん睡状態の老犬を見るのはつらいなあ、と内心覚悟してドアを叩いた私。 パールがDさん宅に飛び込むように入るやいなや、その気配に気がついて丸くなって眠っていたクロエがとことこと起きだして、私に近づきパールと私の匂いをクンクンと嗅ぎ出した姿を見てほっとしたのだ。 「あ~。もっともっとひどい状態なのかと想像していた。思ったより元気そうじゃない」と意識的に明るく言った私だけれど、Mさんは開口一番と言う感じで「もう、“いつ良くなるか”じゃなくて、“いつ決心をするかどうか”ってことなのよ」と、言いにくい言葉を無理に口にするみたいに話した。 つまりそれは、クロエを安楽死させる決定をいつ下すのか、ということなのだった。 その時の会話は、「クロエにquality of life(生活の質)がないような状態になってしまったら、もう安楽死させてやるしかないと思っている。獣医からのアドバイスもあるし」というDさん夫婦に対して、動物の安楽死を人間が勝手に決断を下すことに100%賛成できない私の意見を話し、今までDさんが見送ってきた5匹のコッカースパニエの思い出話をしながら、なんとなく曖昧に話題は別のことに移った気がする。 あの火曜日の午後。ひょいっとソファに飛び上がって、Mさんの横に座りくーくーと眠りこんでいたクロエが、もう自力ではソファに上がれなくなった姿。そして常に半開きになった瞳がミルク色に霞がかかったような様子に、私自身「もうあまり長くないのかもしれないな」とうすうすは感じていた。 でも、まさかこれほどすぐに別れの時がやって来るとは。 Dさんからのメイルに返事を書いて、ふと視線を床に落とすと散歩を待ち切れずにじっと私から眼をそらさないパールと目があった。 そしてなんともいえない気持ちになってしまった。 犬の寿命が人間のそれよりずっとずっと短いという事実はどうにもできないし、それを承知の上で私達犬オーナーは犬を飼うことを引き受けるのだ。 それでも、どうしてもその圧倒的な現実『ずっと生活を共にしてきた存在が、自分より先に逝ってしまう』を目の前につきつけられると、本当に所在ないほど、私たち人間はなんて無力なんだろうと思い知らされる気がする。 唯一できるのは、ありきたりではあるけれど“許された短い期間”をその犬にとって充実したものにしてやることくらいしかない。 で、犬にとって充実した時間っていうのは何も特別なことをするわけでも、高いペットグッズで取り囲んでやることでもないのだ。 ただ、一緒にいてやること。毎日毎日一緒に散歩に出かけること。 そんな簡単なことすら、「あ~、面倒くさいよ~」と投げ出すLazyな私たち人間でさえも、犬たちはただじっと耐えてくれる。 ただじっとそこで待っていてくれる。 さようなら、クロエ。 Top▲ |
by mini_robin
| 2008-07-18 22:20
| 飼い主日記
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