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もの造るひとびと
湖以外にはこれと言って特別な点が見当たらないラパランタの町だけれど、滞在中、そしてヘルシンキに戻ってからも「うん。実はあの町はなかなか素晴らしい所なのだ」と感心させられたのが、クラフト作家のお店の充実ぶりである。


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お店と一緒に“町一番のカフェ”が併設されている。


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彼らの“創作の場”である工房・アトリエを一角に設けたお店が町には数軒あって、サンドキャッスルと並ぶ町のもう一つの見所である要塞跡には、そんなお店兼アトリエが数軒集中している。



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そんなアトリエの一軒で買ったのが、この木製のアクセサリー。


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木製のアクセサリーなんて、正直言言って特に目新しい感じはないのだけれど、実際手に取ってみると色使いがとても繊細。
残念ながらここでも、作家兼店番の女性は英語がそれほど得意ではないらしく、素材や製造過程などは分からないままだったけれど、「サイマ湖周辺にある木(彼女は英語の名が分からないとのことだった)を切る段階から全て手作りで、彩色も植物から採った色素だけを使っています」と言う話だった。
私はアクセサリーと言う物に本当に無縁な人生を送って来た女なので、値段の基準がちっとも分からないのだけど、珍しく夫がずいぶん気にいったらしく「まあ、シンプルなTシャツを着た時にでも合わせるのに、一個くらい持っていてもいいかも」とこのネックレスを購入。値段は約5000円ほど。




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ガランとした廃校跡と言う感じですが、



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お店になっています。


要塞跡から湖に向かって坂を下ったところには、『タッキー・ショップ』と言うお店があった。ちなみに、英語でタッキーとは“やぼったい”とか“悪趣味な”と言う意味があるのでちょっと笑ってしまうのだけど、あくまでもここではフィンランド語。
店内には、明らかに英単語の意味とはかけ離れた美しいアイテムが並んでいる。
数名の女性作家が、共同で経営しているらしいこのお店。
特に工房という面を強く出しているようで、丁度6人くらいの女性が一緒に店内の飾り付けの作業をしている最中だった。
奥のスペースには、机やミシンなどが置かれたコーナーがあって製作中の女性の後ろ姿が見えた。

ここではカラフルなニット製品が豊富だったので「冬の間、犬の散歩のときに身につけるものでもあればなあ」と思っていたのだけど、値段の高さにやはり引いてしまった。
ウールの指無し手袋に5~6000円の値段と言うのは、やっぱりちょっと考えてしまうから。


町の中心に戻り、ホテルのほぼお隣のずっと気になっていた一軒のギャラリーに入ってみる。
入口のすぐ右手、通りに向けた大きな窓の横にはイーゼルを置いたコーナーがあって、そこがこの店のオーナー兼イラストレーターのヘリ・プッキ(Heli Pukki)さんの仕事場なのだった。


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偶然にも、要塞跡にあるお店のひとつで、彼女のイラストを使ったダイアリーがとても気に入っていたのだ。
美しい色使いはもちろん、モチーフとなっているキツネとクマのイラストが愛嬌があって「そろそろ来年のダイアリーを探してもいいし」と思ったのだけど、値段がどうにも不明で、店番らしき人も見当たらず、そのまま買わずに出てきたのだ。

店に入った時、彼女はもう一人の女性と親しげに話をしていた。
きっとお友達か誰かが訪ねているんだなと思いながら(実はそれはお客さんだった。後で気が付いたのだけど、ヘリさんは来店する顧客一人一人に必ず声を掛けていたのだ)、店内のイラストや絵本をじっくり見ていると、背後から英語で「何か質問があったら、遠慮なく聞いてくださいね!」と声をかけられた。
その声の感じや彼女の笑顔があまりに気持ちの良いものだったので、ついついうれしくなって「これはすべてあなたの作品ですか?」という質問から始まって、すっかり会話がはずんでしまった。

イギリスの絵本界では聞かない名前なので、彼女の本が英訳もしくは日本語訳されているのか聞いてみると、「私の主な仕事はフィンランド語に限られている。子供たちが学校で使うテキストブックのイラストを描いたり、詩集につけるイラストを手掛けているんです」ということだった。
話の中で、当然のようにトーヴェ・ヤンソン(ムーミンの原作者)の名を出すと、大きな瞳を更に見開いて「あ~、彼女は本当に特別な人!私が最も尊敬する作家です。私もいつか彼女のような偉大な仕事ができるようになれたらいいけれど」と言いながらも、話をしているうちに彼女の目標は第2のトーヴェ・ヤンソンを目指す事ではない、と言うのがはっきりと伝わってくる。

「こう人こそ、きっと根っからのアーティストと呼ぶべきなんだろうなあ」
私がふとそう感じたのは、彼女が自分の作品(特にこのキツネとクマのシリーズ)に対しての思いを語り始めた時。
そこには、この一見特別でもなんでもない町の一角のアトリエで、自分のペースを守って自分の好きな仕事を毎日続けて行くことを誇りに思い本当に楽しんでいる、という“アーティストとしての情熱”みたいなものを感じたのだ。
彼女が「特に冬が来てじっくりと仕事をする時間がとても気にいっている」と話していたのも印象的だった。


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フィンランドらしく、『キツネに温められサウナを楽しむクマ』

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実は彼女は一度日本にも行っていて、「東京で個展を開いたんです。素晴らしかったわ。たしかねぇ、え~っと(と天井を睨みながら必死に記憶を辿る彼女)クラフト....クラフト・ハウスって言ったかしら?」
キツネとクマのイラストのポストカードを何枚か買いながら、「日本でいつかあなたの名前がメディアで大きく取り上げられる日も、そう遠くはないかもしれないわね」と半分冗談・半分本気で言うと、「いつかそういう日が来るとうれしいわね」と笑っていた。
ここでミーハーな私は“念のために”と一つお願いをした。
「このポストカードにあなたのサインをしてもらえますか?」


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一枚のつもりでお願いしたら、彼女は張り切って5枚全部にサインしてくれた。
ついでに「遠くからのお客様だから、一枚おまけしちゃう!」と値引きもしてくれた。
こういう人大好きだな、私。

さて、このブログを書くためにGoogleしてみたら、見つけましたよ。
例の個展を開いたというギャラリー。
渋谷にある『CRAFT SPACE わ』というお店で、オンラインショップには、ちゃんと彼女の本もある。

ヘリさんと言い、タッキーショップの女性たちと言い、ラパランタと言う町には間違いなく“ものを造る人々”にとって暮らしやすい何かがあるのだろう。
彼女たちのあの嬉々とした表情や、『苛烈な競争』とか『大量生産・大量消費』というものから遠く離れたようなあの町の静けさを思い出すと、なんだか私はとてもうらやましい気持ちになってしまうのだった。
Top▲ | by mini_robin | 2009-08-18 01:21 | 旅に出てみた
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